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信号とグラフ用語

信号は、ある要素が別の要素とどのように関連しているのかを表します。 例えば、アナログ電子機器におけるもっとも一般的な信号は、時間とともに変化する「電圧」です。 こういった要素は値が連続的に変化するので、連続信号と呼ばれています。 この信号をADコンバーターに通すと、要素が量子化されます。 例えば、電圧を1秒間に1000回サンプリングし、一つ一つのサンプルに12ビットのディジタル表現を割り当てる場合を考えてください。 この場合、電圧は1ミリ秒刻みで4096のバイナリレベルに短縮されます。 信号はこの条件で量子化されたパラメータから生成され、離散信号やディジタル化信号と呼ばれるようになります。 離散信号がコンピュータ内に存在する場合が多いのに対し、連続信号はその大部分が自然界に存在します。 また、ある要素は連続信号として、また別のある要素は離散信号として持つことも可能です。 これらがミックスされた信号は極めてまれであるため、それらに特別な名前はありません。 ですのでこの2つの要素の性質は明確に定義される必要があります。

図2-1は、ディジタルデータ取得装置から得た二つの信号波を示したものです。 縦軸は電圧、光度、音圧などを表しているのかもしれませんし、またはまったく異なる別の要素を表しているのかもしれません。 このような場合、私達はそれが何を表しているのかわからないので、それに一般的なラベル(「振幅」など)を与えます。 この要素はY軸・従属変数・範囲・縦座標などといった別の名前で呼ばれることもあります。


横軸はまた別の信号を表し、X軸・独立変数・領域・横座標などと呼ばれています。 時間は横軸で利用されるもっとも一般的な要素ですが、他の要素も特定用途で用いられます。 例えば、地球物理学者は地球の表面を覆っている岩石の密度を等間隔で取得しようとするかもしれません。 それらを保持するために、私達はシンプルな名称(「サンプル番号」など)を横軸につけるでしょう。 もしこれらが連続信号なら、時間・距離・Xなどのような別の名称をつける必要があります。

信号を構成するこの2つの要素は、通常、交換可能ではありません。 Y軸の要素は、X軸の要素と相関関係にあります。 言い換えれば、X軸はいつどのようにして各サンプルが採取されたかを表し、Y軸は そのサンプルの実測値を表すということです。 X軸の具体的な値が決まれば、それに対応するY軸の値を見つけることができます。

DSPで広く使われている「領域」という言葉には特に注意しなければなりません。 例えば、X軸の要素として時間を使った場合、それは時間領域と呼ばれます。 またDSPで使われる他の一般的な信号として周波数がありますが、これをX軸の 要素として用いた場合、それは周波数領域と呼ばれます。さらに、距離をX軸の 要素として用いた場合は、空間領域と呼ばれます。X軸の要素の型は、信号の領域 となります。もしX軸のラベルが「標本数」といったようなありふれたものだったら どうなるでしょう。作者達は普通これらの信号を時間領域として参照するでしょう。 これは、時間間隔でサンプリングを行うことが信号を手に入れるためのもっとも一般的な方法であり、 かつ、それを呼ぶのにふさわしい名称が他にないためです。

図2−1の信号は離散的なものですが、この図では実線で表現されています。 これは信号が非常に多くのサンプルにわかれているためにそう見えるのです。 100個以下のサンプルで表現できる短い信号をグラフにしたものでは、通常、個々の目印はドットとして示されます。 実線はそのドットをつなぐために描かれているのかもしれませんし、そうでないのかもしれません。 それは作者がデータをどう表現したいかによります。 例えば、実線は、サンプル間で何が起こったのかを知る手がかりを読者に与えますが、 それとは別に、単に、ノイズが含まれたデータにおいて、読者がデータの流れをつかみやすくするという働きも持っています。 要するに、あなたはX軸のラベルを調べることで、それが離散信号なのか、連続信号なのかを知ることが出来るのです。 ドットを描くイラストレーターの能力を当てにしてはいけないのです。

変数Nは信号のサンプル数を表す変数として、DSPで広く使われています。 例えば、図2−1で用いられている0〜511という数字がこれに相当します。 データをまとめておくために、それぞれのサンプルにはサンプル番号や索引などが割り当てられます。 これらはX軸上に現れる数字です。サンプル番号を割り当てるための表記法として、次の2つが一般的に利用されています。 1つ目は、1〜N(例:1〜512)という形で表記する方法です。2つ目は0〜N(例:0〜511)という形で表記する方法です。 DSPでは通常、2つ目の表記法を利用しますが、数学者たちは最初の表記法を利用することが多いようです。 この本では、2つ目の表記法を使用します。これはつまらない問題であるように思うかもしれませんが、そうではありません。 この問題があなたを混乱させる日が必ず来るでしょう。